第10章 裁判と約束
一瞬後には粒子は2人の体全体を覆っていき、色も一気に赤く染まっていく。
まるで炎が2人を包み込んでいるような幻想的な光景に杏寿郎としのぶが目を奪われていると、突然診察室の扉が勢いよく開き人が入ってきた。
「胡蝶、すまねぇが傷薬を……ってなんだァ?!」
なんと相変わらず傷だらけの実弥が部屋に入ってきたのだ。
「不死川さん!すぐに部屋を出てください!」
しのぶが実弥を慌てて廊下へと促すが、時はすでに遅かった。
赤く染まった粒子は意思を持っているかのように実弥まで範囲を広げ、腕や胸元の傷を一瞬で跡形もなく消し去って行った。
それに伴い更紗の呼吸が徐々に乱れ、顔には汗が流れ落ちる。
しのぶは瞬時に実弥へ近付き廊下へと押し戻し扉を閉め、杏寿郎は更紗を抱きしめて力を抑えさせる。
「抑えなさい」
「ん……ふぅ、はい」
更紗が強張っていた体の力を抜くと共に、部屋の大半を覆っていた赤い粒子は薄まり、数秒後には何事もなかったかのように霧散していった。
だが更紗の体は杏寿郎の胸に力なく沈んでいく。
「大丈夫か?!胡蝶!」
「分かっています、更紗ちゃん、これを飲んでください」