第10章 裁判と約束
それから杏寿郎と更紗はしのぶに手渡された医療用の小さな刃物を片手に持ち、向かい合って椅子に腰かけしのぶの言葉に耳を傾けている。
「いいですか?指先を少し切るだけですよ?特に煉獄さんは勢い余って深く切らないよう、加減をしてくださいね」
しのぶは多くの医療器具や薬を脇に置き、特に杏寿郎へ注意を促す。
ただ治療をするのではなく最悪命に関わる事なので、杏寿郎、更紗の両名の危険を最小限に抑えるための注意だ。
「うむ!心得た!更紗、準備はいいか?」
しのぶと更紗にとって威勢の良すぎる杏寿郎の返事は不安を呼び起こさせたが、普段から刀を振るっているので信じるしかない。
そして更紗は不安を胸に押し込め、手の震えを抑えるために深呼吸を零し、しっかりと杏寿郎を見つめる。
「はい、いつでも大丈夫です」
「うむ!」
そう言って杏寿郎は刃物を指先に軽くあてがって横に滑らせると、浅く皮膚と身が切れ、じわじわと血が溢れてきた。
それを確認すると更紗も同じように刃物で指先に傷をつけ血を流し、杏寿郎の傷口に近付ける。
「いきます」
その声を合図に更紗が力を解放すると、いつも通りの白銀の粒子が杏寿郎の指を包み込んだ。
だが、そんな光景は僅かな時間だけであった。