第10章 裁判と約束
それでは意味がないのだ。
人を救うために研究をするのに、被検体の命の保証が確立されないのならば、それ自体に価値がなくなる。
「それは出来ません。杏寿郎君もしのぶさんも私にとってかけがえのない存在です。お2人の命が危険に脅かされるなら、その力は諦めます」
「更紗ちゃん、ここで僅かな危険を冒す事と、任務中に目の前で柱や隊士が亡くなる事とどちらが大変だと思いますか?」
意地悪な質問だ。
普通の人間ならどちらも選べないだろう…… 更紗とてどちらが正しいかなんて分からない。
鬼殺隊として敢えて述べるのならば、答えられなくも無いだろうが。
答えられず口を噤む更紗に、しのぶは眉を下げながらも笑顔を向ける。
「ご存知だと思いますが、私は薬学や医学に覚えがあります。ここで起こるかもしれない事態はある程度想定していますし、対処方法も心得ています。ですので、ここでの事はほぼ心配は必要ありません」
しのぶは1度言葉を切って、自身の前で体を強ばらせて座っている更紗の手を握る。
「私はここに運ばれてくる人達の処置を行う事は出来ても、激しい損傷を受けた臓器を治す術も、折れた骨を瞬時に元に戻す力も持ち合わせていません。貴女なら私の言いたいこと、分かりますよね?」