第10章 裁判と約束
「さて、単刀直入に申しますと、今回の件に関しましては私か煉獄さんが研究の実験体になる必要があります」
先ほどまで滲ませていた緊張した雰囲気は皆無であるが、笑顔のしのぶから衝撃的な発言が飛び出し、更紗は一瞬全ての機能が停止した後、心臓が激しく胸を打ち始める。
「今までは裏山の怪我をした動物達の治癒を行っていましたが、それは事前に更紗ちゃんの力が動物にとって害がないものだと判明していたからです。お2人は人間と他の動物の血液に違いがある事はご存じですか?」
もちろん更紗は知らない。
杏寿郎は知っているのかと視線を送ってみるが、やはり知らないようで首を左右に振った。
「成分はほとんど変わりませんが、血中にある成分の遺伝子などがそもそも違うのですよ。だから人から動物、またはその逆は拒絶反応が起こって輸血は出来ません」
「それはつまり、血を媒介にする治癒は輸血する事と同義だと言うことでしょうか?」
更紗の言葉にしのぶは顔を綻ばせて頷く。
その仕草、笑顔は教師が生徒に向けるものである。
「正解です。ですので、動物相手にそれをすると死んでしまいます。恐らく人間相手ならば大丈夫かと思いますが、確証はありません。文献にはその力で複数の人間を完治させた事は書かれていましたが、何分古いものですからね」