第10章 裁判と約束
胸に抱きかかえた鬼の少女の体は人間と同じように温かく、本当に鬼なのかと疑うほどだった。
杏寿郎は自身の胸に体重を預ける少女の背をあやすようにポンポンとゆっくり叩いてやると、笑みを浮かべた可愛らしい瞳が見上げてきた。
「これが好きなのか?」
禰豆子はコクコクと頷き、杏寿郎の胸の中に顔をうずめて行った。
「杏寿郎君がお気に召したのですね。確かに杏寿郎君の胸の中は不思議と落ち着くのでお気持ちがよく分かります」
更紗が穏やかな笑みを禰豆子に向けて頬を撫でると、その手をそっと握って顔を猫のようにすり寄せてきたものの、眠気が再び襲ってきたのか船を漕ぎだした。
「ふむ、やはり一時的に目を覚ましただけだったか」
そう言い終わる頃には禰豆子は深い眠りに落ち、再度静かな寝息を立てだした。
そんな禰豆子を杏寿郎はベッドの中へ戻して布団を首元までかけてやる。
そしてそれをそばで見守っていた更紗の肩を抱き寄せると、今度は更紗が胸に顔をうずめてきた。
「ここに連れてきてくださってありがとうございます。禰豆子さんに抵抗があったはずなのに……私の気持ちを優先させてくださったんですよね」