第10章 裁判と約束
部屋に入ると、廊下と部屋との明るさのあまりの違いに目の前が暗闇に覆われる。
だがそれも禰豆子に配慮された暗さだと思うと、しのぶやこの屋敷の人たちの優しさが垣間見えるようで2人の心の中が温かくなる。
そして目が慣れた頃に布で日の光を遮られた窓の近くのベッドまで歩き中をのぞき込むと、その中で竹筒を咥えたまま静かに規則正しく寝息を立てている禰豆子の顔が目に入った。
「鬼だなんて信じられないくらい可愛らしいですね。すごく穏やかで、優しいお顔をしています」
更紗は禰豆子を愛おしみ、そっと頬を撫でる。
「あぁ、普通の少女のようだな」
杏寿郎に禰豆子を愛おしむ程の感情は今はまだ沸かないが、純粋に可愛い少女という認識で頭を撫でてやると、禰豆子の瞼がかすかに震え、徐々に大きな瞳が開いていった。
「お、起こしてしまったか?!それほど強く撫でたつもりはなかったのだが」
「い、いえ!私が頬を撫でたからかもしれません!」
実際の所、禰豆子は更紗や杏寿郎の撫でた感覚で目を覚ましたのではなく、慣れぬ気配をそばで感じたから意識を覚醒させたのだ。
「すみません、禰豆子さん……起こしてしまいましたね」