第10章 裁判と約束
「猪頭少年、自らの弱さを自覚することは大切だ。だが、そのままいじけてるだけでは強くなれないぞ!強くなり鬼を倒したいのならば立ち止まるな、前を向け!」
「マエ?」
「そうだ。まずは回復してここで胡蝶に機能回復訓練をしてもらうといい。彼女から学ぶ事は多くあるからな。その後に強くありたいと思い続けているなら、俺を頼れ」
杏寿郎がそう言ってニコリと笑うと、伊之助の周りがホワホワと温かい空気に包まれた。
はっきりとは明言してないが、恐らく杏寿郎は伊之助も継子として迎えてもいいと思っているのだろう。
広い新居が賑やかになることを想像して、更紗の顔につい笑顔が滲む。
「更紗、なんだか嬉しそうだな。こんな事言ったら失礼かもしれないけど、更紗からは母ちゃんみたいに包み込んでくれるような優しい匂いがする」
「ちょっと楽しそうな未来が思い浮かびまして……ん?お母さんみたいな匂いとは?」
年頃の女子に向かって母ちゃんは確かに失礼だが、更紗に怒っている様子はなく、どちらかというと匂いと言う単語に反応した。
「俺、生まれつき鼻がよくて、人の性格とかその時の感情とかが匂いで何となく分かるんだ。更紗は自分がどんな状況でも、人を包み込んでしまうような優しい匂いがするんだ」