第10章 裁判と約束
お館様は杏寿郎に更紗をと指名した。
上弦の鬼ならばもう1人柱を向かわせてもいいものだが、そうではなく治癒の力を持つ少女の同行を念押ししたのだ。
つまり杏寿郎が望もうが望むまいが、治癒の力が必要になる任務になるのだろう。
それを考えると研究は急務かもしれないが、杏寿郎としては複雑な心境だ。
「あまり俺に対して治癒の力を使わせたくはないのだがな……それでも更紗が後悔して涙を流す姿を見るくらいならば……胡蝶に任せたい。ちょうど更紗も本部にいるので、今から向かわせてもらう事にする」
苦渋の決断を下した杏寿郎にしのぶは苦笑しながら頷く。
「分かりました。私はまだ少しここに用事がありますので、先にお2人で向かっていただけますか?カナヲやアオイには伝えておきますので」
一緒に向かえばいいのではと思ったが、しのぶはしのぶでお館様に用があるのかもしれない。
無理に誘うのも憚られたので、杏寿郎は素直にしのぶに従うことにした。
「了解した!では更紗と合流し、先に蝶屋敷へ邪魔させてもらう。また後ほどな、胡蝶!」
「はい、また後ほど」
しのぶは笑顔を残して杏寿郎の前から去って行った。