第3章 出会い
自分が親の立場ならば言ってたかもしれない……と心の中で思ったがどうにか胸にとどめる。
「まだほんの僅かな日数しか君と過ごしていないが、俺は君が果てしなく優しくて、思い遣りに溢れた存在だと感じている。だからこそ、心配もしている。自分に向けられた悪意をも、さも自身がそうさせてしまったのだと飲み込んでしまう。なぁ?更紗」
問い掛けられるも上手く言葉が出てこず、酸素を求め水面で口をハクハクさせる魚のようになってしまう。
「悪意は悪意を向けている者の意識だ、更紗のものではない。悪事も悪事を働く者が悪い。決して被害者が責められる世の中ではあってはいけないし、それを甘んじて受け入れてはならない。更紗が不快だ、嫌だと感じたら叫んでいい。嫌だと拒否していいのだ」
固まる更紗に杏寿郎は笑いかけ、頭に手を乗せて髪が乱れないよう気を配りながら撫でてやる。
「俺が怒っているのではない事は分かって欲しい。これから更紗は鬼殺隊の剣士となって鬼狩りを生業とし、殺伐とした命のやり取りを日常的に行うようになる。更紗は鬼に襲われている人を見て、その人がそこに居たから、鬼の好む血肉だったから悪いと思わないだろう?」