第3章 出会い
「え?」
今度は更紗がキョトンと杏寿郎を見つめる。
何が別なのか分からず戸惑い、瞳が揺れる。
(別……なのでしょうか?でも、私が力を使わなければ攫われなかったし、あの人達も攫わなかったはず……)
「今、自分が力を使わなければ人攫いも更紗を攫わずにすんでいた、と思わなかったか?」
胸中を的確に掴まれ、更紗は大きく肩を揺らした。
図星だというその動きに、杏寿郎は一瞬苦笑いをうかべるが、すぐに真剣な視線を更紗に送る。
「時に世の中は、自分の意思とは関係なく抗いようの無い波で足元を攫おうとしてくる。その流れに逆らえず、歯を食いしばって耐えなくてはいけないことも多い……俺自身も幾度となく経験した」
「はい……」
「更紗は約束事を破ったが、自分の益のためでなく自分より弱い立場の者を救いたいと言う純粋で、優しさに満ちた愛おしい行動だと思う」
視線を庭へ戻し、更紗の反応を待つが俯いたまま動かないので続けることにした。
「なぜ大人を呼ばなかったと言う者もいるかもしれん。だが、そんな事を咄嗟に思い浮かぶ思慮深い幼子が、この世の中にどれだけいるだろうか?それは大人目線の結果論であって、子供目線に合っていないように思う」