第10章 裁判と約束
「はい、もちろんです」
「では先に風呂をいただいておいで。その間に俺は明日の準備を済ませておく」
杏寿郎はそう言いつつも名残惜しそうに頬を撫でるので、更紗は腕の中から抜け出せずにいる。
「杏寿郎君?どうかされましたか?」
「いや、なんでもない……行っておいで」
なんとも歯切れが悪いが、何か自分に話すべきことがあれば時期が来れば話してくれるだろうと思いなおし、解放してくれた腕に手を添える。
「行ってまいります。私に出来ることがあれば、何でも仰ってくださいね」
「あぁ!さっぱりしてくるといい」
杏寿郎のいつも通りの笑顔を確認すると、更紗は着替えなどを準備して部屋を出て行った。
そして1人部屋に残された杏寿郎はため息をついて窓際に腰を下ろし、火照った体を冷ます。
「ふぅ……更紗の天然の煽りはいつも通りとして……剣士の質の低下はどうしたものか。せめて全集中常中を全剣士に取得させるよう提案してみるか?」
これまでの……そしてこれからの更紗との時間とは似つかわしくない物騒な呟きが部屋へ響き、静かに消えて行った。