第10章 裁判と約束
「あまり褒めすぎると抑えがきかなくなってしまうぞ……それに支えられているのは俺も同じだ。更紗を失いたくないというこの気持ちは、他の誰かも誰かに抱いている感情だ。そんな人たちを鬼から守らなくてはいけないと、心から思える」
杏寿郎は抱きしめている更紗の体を反転させ自分の方へと向かせると、薄く紅の引かれた唇に親指を這わせる。
「個人的にもこうして大いに癒され、心の安寧を保ってもらっているが」
そう言って親指を唇に沿って横へ滑らせ、その手ごと頬へ移動させて口付けしようと顔を寄せるが、更紗の手が杏寿郎の唇に当てられ制止させられた。
その手を杏寿郎がそっと掴んで離し視線だけで理由を問うと、更紗は悲し気に目尻を下げた。
「杏寿郎君の唇に紅がついてしまいます」
更紗の憂いは、ただ杏寿郎を喜ばすだけのものだった。
「では更紗の紅を取れるのは俺だけだな。なんとも喜ばしいことだ」
頬の化粧が分からなくなるほど顔を赤く染める更紗に笑顔を零し、小さな唇に自らの唇を深く落とした。
「ふ……んっ」
艶めかしい更紗の声が杏寿郎の耳から脳へと届き、次第に意識を混濁させていく。