第10章 裁判と約束
宿への道すがらも、遅めの夕餉をとるために入った食事処でも、2人は周りの目を引いた。
1人は太陽のような金の髪、1人は月のような銀の髪。
特に更紗に至っては艶やかな深紅の着物を身に纏い、あどけなさの抜け切れていなかった顔は、化粧によりすっかり垢抜け少女から女性のそれへと様変わりしている。
それなりに栄えた街は街灯により明るく、人通りも多い。
整った顔立ちの2人がそこを歩けば振り返る人も現れるが、杏寿郎が番犬よろしく更紗の腰に手を回し、しっかりと寄り添っているので誰も声はかけてこなかった。
宿の部屋に戻ると、杏寿郎は我慢の限界を迎えたのか更紗を後ろから抱きしめ、化粧の施された顔に自身の頬をすり寄せる。
「普段は愛らしくて、化粧をすれば綺麗になるなど……君は本当に飽きさせてはくれないな」
すぐ近くで聞こえる杏寿郎の声はいつもより低く、更紗の意識をフワフワと曖昧にしていく。
「私より、杏寿郎君の方が魅力的ですよ。お声もお顔もお体も……何より優しく春の日差しのような温かな心根が、私をいつも支えてくださり、穏やかな気持ちにしてくれるのです」