第10章 裁判と約束
「いえ!明日もお呼びいただいているならば早く宿に戻りましょう!出来る限り明日に備えて杏寿郎君の体を休めなくては」
立ち上がろうと畳に手をついた時、背中に流されていた髪が肩を滑り落ち更紗の視界に入って思い出した。
今自分は深紅の着物を身に纏い、化粧を施しいつもと違う髪形をしている事を。
自身でも見慣れぬ姿を杏寿郎に晒しているのだと思うと、恥ずかしさが込み上げてきて体温が上がってくる。
それでも杏寿郎の反応が見てみたくて恐る恐る顔を上げると、ほんのり頬を赤く染めてあどけなく笑う杏寿郎の顔が映った。
「正直驚いた。ここまで変わるとは……愛らしいから綺麗になっていて戸惑ったぞ!歩きながらで構わないので、待っている間にどんなことがあったのか教えてくれ!」
「はい!たくさん楽しい事があったのですよ」
杏寿郎は満面の笑みの更紗の手を取り立ち上がらせると、背に流された髪をゆっくりと梳いた。
「それは何よりだ!それにこの結い方、俺と揃いで何ともむず痒いがいいものだな!」
嬉しそうに髪を何度か梳いた後、その手を背中へ移動させて部屋の外へと促し宿へといざなう。
「これにも理由があるので聞いてください」
宿へ移動するまで待っている間の出来事を更紗は楽し気に話し、杏寿郎はこれまた笑顔で聞いていた。