第10章 裁判と約束
更紗が部屋に到着して一刻ほどたった。
ここからでは日は拝めないが辺りは暗くなっているだろう。
今日は1日で様々な事が起こり更紗も気が張っていたのか、いつの間にか壁にもたれかかって寝息を立てている。
そこへ長い柱合会議を終わらせた杏寿郎が入ってきた。
「待たせた……更紗なのか?」
鈴村流大変身を遂げた更紗にゆっくり歩み寄り恐る恐る顔をのぞき込む。
顔にかかった見慣れた銀髪を掬い上げると、見慣れたはずなのに化粧を施された見慣れない顔が露わになった。
「ふむ……これは……とてつもなくよくないな。どうしたものか」
顔を赤くして俯き熱に浮かされそうな脳を冷ますように深呼吸をおとし、化粧によって薄紅に染まった頬を撫でる。
「更紗、待たせた。起きられそうか?」
その声に反応して長いまつげが震え徐々に赫い瞳が姿を現す。
「ん……杏寿郎……君。杏寿郎君?!すみません、ついうたた寝をしてました!柱合会議お疲れ様です!」
一気に覚醒した更紗は親の帰りを待ちわびていた子供のように、顔を笑顔で満たし杏寿郎の手を握る。
「謝る必要はない、随分待たせてしまったからな。明日もお館様に呼ばれているので宿に戻ろうと思うのだが、疲れているならば少し体を休めて行くか?」