第3章 出会い
しばし時は今に戻り…… 更紗はホゥと一息つく。
杏寿郎はまだ序盤にも関わらず、胸の内に密かに静かな怒りをたぎらせていた。
肘を胡座をかいた両方の膝に乗せ、指を交互に組み合わせて口元に当てて鋭い視線で庭を見ている。
(町外れの村では人攫いが殊更多いと聞くが……実際に被害者から話を聞くと心底腸が煮えくり返る思いになる。幼き子供は守り助け見守るはずの存在のはずだ)
そんな杏寿郎の表情を見て、更紗はクスッと笑う。
「む?どうかしたか?」
杏寿郎は一瞬で怒りを奥深くにしまい込み、キョトンと更紗に向き直る。
「いえ、本当に杏寿郎さんはお優しいですね。でも、私が約束事を破った事がそもそもの発端なのです」
なおも笑顔で続ける更紗は、本当にそう思っているようだ。
その様子に杏寿郎は怒りとは違うもどかしい物を感じた。
何か……その更紗の考えに違和感を感じた。
それが何なのかを探る意味でも口を開いた。
「確かに更紗は約束事を破ったかもしれん。それはいけない事かもしれないが、それとこれとは話が別ではないのか?」
(あぁ、そうだ。悲しい出来事が起こった時、君は全て自分の選択が間違っていたから仕方がないと諦めてしまう。誰も責めたくなくて、全て自分の中に負の感情を押し込めてしまっているのだな)