第10章 裁判と約束
結果、圭太の予想通り前田はいたが、他の裁縫係が別室へ隔離してくれたので更紗が直接話すことはなかった。
そうしてしばらく裁縫所で圭太も交えて話していたが、呼ばれていた時間になり沈痛な面持ちの圭太を見送って、現在は裁縫所内の休憩室でお茶をいただいている。
「月神さんはお化粧に興味はないの?こういうのって定番なんだけど、殿方がいない隙に大変身して驚かせる……とかしたくない?!したいよね?!」
卓袱台代わりの作業台に勢いよく手を置き、向かいに座る更紗に身を乗り出している女性は、裁縫係の隠、名前は鈴村というらしい。
この女性は更紗の隊服や羽織を手掛けてくれた人であり、あの外套の製作もしてくれた。
この場所に更紗がやってくるなり、その羽織を見て本人だと判断するや否や案内まで買って出てくれたのだ。
だが他人に対する美的好奇心が強く、今は更紗をどうにか飾り立てようと躍起になっている。
「興味がないわけではないのですが、自分でしたことがないので……大変身……柱合会議が開かれているのに、私だけ楽しんではいけない気が……」
実際の所、今は杏寿郎を待っているだけなので叱られることはないだろうが、更紗は気が引けるのか及び腰だ。