第10章 裁判と約束
「もちろんだ!」
杏寿郎は抱え上げていた更紗の体を地面へと下ろし、その両肩にそれぞれ手を置く。
「鬼となった妹を守るため、自分より格上の相手でも躊躇いなく闘おうとする強い精神、今は力及ばずとも鬼舞辻を倒すという揺るぎない心……それに少年も妹も更紗と同じ優しい瞳をしていたのだ」
炭治郎と禰豆子の瞳を思い出しているであろう杏寿郎の瞳が、更紗には何よりも誰よりも優しく映った。
鬼へ対しての嫌悪感を胸の奥に強く持ちながらも禰豆子の優しさを感じ取り、更には引き取って知ろうとする杏寿郎の姿に更紗の胸には優しい痛みが走る。
「私なんかより杏寿郎君の懐の深さに感銘を受けます。いつの日かお義父様が仰られていたように、何でも背負い込んでしまうのではないかと心配になります」
更紗は杏寿郎の頬を指でなぞり心配げに瞳を揺らす。
無意識の行動に杏寿郎の脳が熱を帯びるが、ここはお館様の屋敷の庭である。
欲のままに行動する事など許されない場所だ。
「更紗はどこでそのような俺を誘う言動を覚えてくるのだ?ここがお館様の屋敷でなければ君の肌を求めてしまっていたぞ」