第10章 裁判と約束
『怪我』と言う言葉に杏寿郎はピクリと反応するが目の前でみるみる険しい表情へと変わっていく実弥を前に、この場所から動くわけにはいかなくなった。
だがその表情は更紗に向けられたものではなく、立ち尽くしている炭治郎へ向けられていた。
「けどなぁ……俺はそいつと鬼の存在を許してねぇからなァ!」
殺気だった実弥に炭治郎も先ほどの事が思い起こされたのか実弥に負けず劣らずの険しい表情となった。
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!」
ブチッ
と更紗と杏寿郎の耳に、実弥から頭の線が切れる音が聞こえたような気がした。
それ程に怒りを露わにしたからだ。
「てめェ……ぶっ殺してやる!!」
2人がそれぞれを止めるために動き出そうとしたところで、よく通る澄んだ声が響き渡った。
「「お館様のお成りです」」
その声を合図に、柱全員が一斉に整列して跪いた。
さすがの更紗も三度目なので全員に遅れることなく素早く柱達の後ろへ下がり、木箱を脇へ置き正座をして頭を下げた。
炭治郎は実弥に頭を押さえつけられ、再び地面へと体を預けざるを得なくなった。
今日は実弥がお館様への挨拶を行い、ついにお館様の竈門兄妹に対する考えを知る場となる。