第10章 裁判と約束
突如として現れた更紗に実弥は呆気にとられ、ボタボタと鼻から血を流しながら凝視している。
「お前……なんでここにいんだァ?……腕、血ィ出てんぞ。さっさと治せ」
実弥は頭突きによって崩れた体勢を戻すと、地面に転がっている更紗の背を支えて起き上がらせてやる。
「腕は……大丈夫です……申し訳ございません」
実弥の怒りの根源を庇った更紗に対する、あまりにも優しい対応に周りの全員が驚き言葉を失っている。
特に炭治郎に至っては、先程まで憎悪にも似た感情を全面に押し出していた実弥の変わりように戸惑い立ち尽くしてしまった。
「更紗!動くなと言っただろう?!不死川、手間を取らせて悪かった。継子の不始末は俺の責任だ、責めるなら俺を責めてくれ!」
ズイと更紗を庇うように杏寿郎は2人の間に割り込むが、実弥が言葉を荒立てたり殴りかかってくる気配が感じ取れず心の中で首を傾げる。
「更紗に対して思うところはないのか?」
「……ないって言やァ、嘘になる。だが、まだそれを拾っただけで中の鬼を庇ったわけじゃない。それに怪我ァしてる女に当たり散らすほど落ちぶれちゃいねェんでな」