第3章 出会い
「前にお父さんが言ってたな……自然界で生きる生き物は、弱ければ死んでしまう。弱っている者を守ろうとすると、自分の命も危うくなるから遠ざける事が多いって……」
では、ここで懸命に生きている仔猫は死を待つだけしか出来ないのだろうか。
更紗は両親に目に入れても痛くないと言わんばかりに愛され、日々幸せに過ごしている。
人間と外の世界で生きる猫とは大きな違いがあるかもしれないが、どうしても見捨てる事が出来なかった。
だが更紗の心に引っかかっていることがある。
両親や家族のように優しい村の人達から、口を酸っぱくして言われ続けている更紗に対する約束事だ。
『村の中でも外でも、安易に力を使ってはいけない。村人以外の人間がいる時は、特に気を付けること。神様に愛された力を自分の欲だけに使わせようとする人もいるから、この約束だけは必ず守るように』
というものだ。
よく理解出来ていなかったが、駄目だと言われているのだから駄目なのだとその約束事をきちんと守っていた。
だが、目の前には何も手を施さなければ一刻を待たず命を落とすであろう仔猫の姿がある。
それが幼い更紗の頭から約束事を忘れさせてしまった。