第3章 出会い
「では、今聞いていただくことは可能ですか?」
杏寿郎はその言葉に更紗の様子をよく観察した。
無理をしていないか、世話になる身だからと自分の気持ちを無視して話そうとしていないか、を。
だが黙って見つめているが、更紗の瞳は揺るがない。
先程の出来事から自分なりに考え、杏寿郎に話そうと決めていたのだろう。
「あぁ、話せるなら話してくれるか?」
暗い気持ちにさせてしまうかも知れませんが、と困ったように笑って話し出した。
「拐われたのは、私が5歳の時でした。本当に偶然だったんだと思います」
ーーー11年前ーーー
更紗は家の近くの川に遊びに来ていた。
父は仕事に行き、母は昼間は家事に勤しんでいる。
近くなら遊びに行ってもいいと両親から言われていたので、約束を守って緩やかな流れの小川で花を摘んだりするのが日課だった。
両親の喜ぶ顔が見たくて、小さな手で一生懸命花冠を作っていると近くで鳴き声がした。
作りかけの花冠をソッと地面に置き、鳴き声のする方へと足を向けると、草の中に足に傷を負った仔猫が痛みをこらえるように身を丸めながら、懸命に母猫を呼んでいるようだ。
辺りを見回すと少し離れたところに母猫と思われる猫がこちらの様子を伺っている。