第10章 裁判と約束
その場から逃げ出すように足を踏み出すが杏寿郎に密かに手首を掴まれ、耳元で更紗にだけ聞こえるような小さな声で囁かれる。
「覚えておくように」
「ぴぎっ!」
手はすぐに離され杏寿郎の声も誰にも届いていないので更紗がいきなり立ち止まり、そしていきなり奇声を上げるというなんとも奇妙な状況になってしまった。
一度に様々な羞恥に襲われ顔に熱が昇るも心配そうに更紗を見つめる柱達に説明するわけにもいかず、笑顔を向けている杏寿郎に恨めし気な視線を残して炭治郎のもとへ走り寄る。
「更紗……ごめんな。ゲホッゲホッ!俺のせいで怒られたんじゃ……」
自分の傷の痛みがあるにも関わらず他の者を気遣う言葉に更紗は棗を思い出し、胸に鋭い痛みを感じながらもそれを表に出さないよう出来る限り穏やかな笑顔を向ける。
「いえ、私が勝手にしたことですのでお気になさらず。怪我を治癒しますのでそのままでいてくださいね」
何かを感じ取ったのか悲しむように目をひそめながらもその言葉に炭治郎が頷くと、更紗は炭治郎の顔に手を当て治癒を開始した。
多くの柱にとって二度目の光景だが、やはり美しくも不思議な光景に全員の目が釘付けとなっている。