第3章 出会い
襖をゆっくりと開けて更紗は中に入る。
視線の先には、居間の縁側にゆったりと腰を下ろし、穏やかに微笑みながらこちらに振り返っている杏寿郎がいた。
どうやら茶は更紗と飲む為に待ってくれていたようで、2つの湯呑みは乾燥したままだ。
「お疲れだな、更紗」
殊の外穏やかな声に更紗は自然と笑みがこぼれる。
「お待たせしました」
その言葉に杏寿郎は頷くと、ここに座りなさいと言うように自分の左隣りの床をポンポンと叩いた。
それに従い指定された場所に座り、杏寿郎が入れてくれた茶の入った湯呑みを受け取る。
ズズッとホッコリしながら2人で茶をすする。
特に何の話をと考えていなかった2人だったので、更紗から話を持ち掛けた。
「杏寿郎さんは、私があの屋敷で何をしていたか気にはならないのですか?」
ニコニコと茶を飲んでいた杏寿郎の表情が一瞬で真顔に変わる話題である。
「……正直に言うと気にはなっている。だが、俺から無理に聞く内容ではない事だと分かっているから、更紗の心の準備が出来るまで待つつもりだ」
その真っ直ぐな瞳に嘘偽りはないと、はっきりとうつしだされていた。
杏寿郎の言葉と瞳に、更紗はゴクリと唾を飲み込むと決意したように口を開く。