第10章 裁判と約束
そうして更紗が口をつぐむと指を離し、その指を軽く握られた手の平の上でゆっくりと滑らせる。
“しんぱいするな”
更紗の視覚と手の平を滑る指の感覚が間違いなくそう認識させた。
現在の場所と状況、天元の耳の良さ、更紗の気持ちを考慮した上で筆談と言う手段をとったのだろう。
更紗が竈門兄妹を助けたいと思っていると天元も流石に気が付いている。
それでも更紗本人がそれを天元の耳に入れないようにしたのだ。
それを杏寿郎が勝手に口に出すことは出来なかった。
更紗はそんな杏寿郎の意図をきちんと感じ取り手の平から杏寿郎へ視線を移し、泣きそうな笑顔で小さく頷いて自分の手を握っている杏寿郎の手を両手で包み込んで目を伏せ頬へ寄せた。
杏寿郎は更紗の耳元へ顔を寄せかろうじて聞こえる声で呟く。
「大丈夫だ」
その言葉だけで更紗の心は安心感に満ちて笑顔が零れた。
それを確認すると杏寿郎は1度頭を撫でてから握られていた手を離し襖へ歩いていき天元を呼んだ。
「宇髄、待たせたな!」
これから僅かな時間の後、裁判が行われた。