第10章 裁判と約束
こうして心から天元へ笑顔を向けているが、本当は竈門兄妹を救いたい願っていると知っている杏寿郎は複雑な気持ちだ。
(こういう時こそ我儘を言えばいいものを……相も変わらず自分の気持ちには鈍感で不器用だな)
昨日なくなったはずの悶々とした気持ちが今度は違う理由で杏寿郎の胸の中にくすぶり始め、つい眉間にしわが寄り天元に指摘された。
「もしかして姫さんと俺が話してるから眉間にしわ寄せてんの?」
「そんな訳あるまい!宇髄、ほんの僅かで構わないので後ろを向いていてくれないか?俺に癒しが必要なのだ!」
「え?なんで?今必要な事か?」
「裁判が始まる前に必要な事だ!」
天元はポカンと口を開けて杏寿郎を見つめる。
しかし冗談を言っているようにはどう頑張っても見えず、後ろと言わず襖を開けて廊下へと足を踏み出した。
「ほんっと俺の前だと遠慮もクソもねぇな!終わったら声かけろよ」
「うむ!感謝する!」
そうして襖が閉まると、天元と同じくポカンとした顔をしている更紗と向き合ってその手を取る。
「杏寿郎君?」
杏寿郎の行動に疑問を感じ声を出すが、静かにというように唇に人差し指をあてがわれた。