第10章 裁判と約束
天元は更紗が可愛くて仕方がないというように頭をガシガシと撫でまわし、杏寿郎の言葉に大きく頷いた。
「そりゃあそうだろ!煉獄と俺が手塩にかけて育てた姫さんが、十二鬼月を倒したんだぜ!嬉しいやら誇らしいやらで、可愛くて仕方ねぇ!」
実際に可愛くて仕方がないらしい。
杏寿郎も天元の気持ちが分かるので、頭を撫でまわす手をどけようとは思わなかったが、そろそろ更紗の三半規管が限界だと悟り、その体を自分の方へ引き寄せる。
「可愛がるのは構わんが加減をしてやるんだ。裁判が始まる前に倒れたらどうする」
杏寿郎の言葉に今まで笑顔だった天元の表情が強張り、部屋の空気が一気に張り詰めたものとなった。
「裁判ねぇ……鬼を連れた剣士に裁判なんか必要か?派手に隊律違反してんだから鬼もろとも剣士も斬首しかねぇだろ」
やはり天元の意見も竈門兄妹を厳しく罰するというものだ。
更紗は撫でまわされ揺れていた頭を覚醒させ天元の顔を見つめるが、やはり鬼への嫌悪感で満たされていた。
もちろん更紗の中にも嫌悪感は存在するものの、まれに消えゆく中で涙を流す鬼を目にすると、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
「……多くが望んで鬼と化した訳ではないのに、人間の頃の記憶をなくして大切な人ですら襲ってしまう……意思が奪われるって、残酷で悲しいですね」