第10章 裁判と約束
梅の花を存分に愛でた2人は、すこぶる心穏やかに産屋敷邸へと到着し、まだ誰もいない例の待合室のような部屋で待機している。
だが先ほどまでの穏やかさは今の更紗には微塵もなくなっていた。
「うぅ……なぜ私も裁判に出席するのでしょうか?私みたいな一般剣士が度々このような大それた場所に参列するのは気が引けてしまいます……」
今にも涙を零してしまいそうな更紗の頭を杏寿郎はヨシヨシと幼子をあやすかのように撫でてやる。
「裁判に直接関係する話しはないが、おそらく更紗が襲われた際に現れた、黒い着物の綺麗な女性についてではないだろうか?お館様へご報告したところ、関心を持たれていたからな」
更紗はそう言われ人ではありえない整った顔立ちの中に、底知れぬ冷たさを持ち合わせていた女性の姿を思い浮かべ体を震わせた。
「瞳孔の形からすると鬼に違いないと思うのですが、なんだか普通の鬼ではないように感じました。何者にも感情を持たないと言いますか……思い出すだけで身がすくみます」
冗談でも大げさでもなく本気で怯える更紗の手を両手で包み込み、自らの額へあてがう。