第3章 出会い
それから着替えを済ませ、顔を一緒に洗ったまではよかったものの、更紗が自分の髪を結い上げるのに思ったより時間が掛かりそうだったので、杏寿郎は笑いを堪えながら不器用な更紗を置いて、台所で茶の準備をしておくと言って出ていってしまった。
「普通の女の子は素早く結えるものなのでしょうか?」
小さな事だが、こういった周りが普通に出来ているであろう事が自分は満足に出来ず歯痒い。
普通に両親の元で生活出来ていれば、と思う事も多くある。
だが、今のままの更紗を受け入れてくれた杏寿郎、しのぶ、千寿郎がいる。
多くの選択肢の中で、今に至る選択を選べた自分を少しだけ誇れるのも事実だ。
今は手間取っているこの髪を結う行為も、きっと明日は今日よりも少しは早くなるはず。
そんなことを考えながら、ようやく綺麗に昨日と同じ髪型に仕上げた更紗は慌てて居間へ向かう。
「今日は朝から失敗ばかり……明日からの鍛錬、頑張らなくては!」
まだ家中が寝静まる中、音を立てないように気を付けて廊下を進みおくればせながら居間の襖の前に到着した。