第9章 風柱と那田蜘蛛山
特に実弥に関しては鬼への嫌悪感どころか憎悪を抱いているので、斬首以外考えてはいないだろう。
「はぁ……鬼の対処にここまで悩む日が来るとは思いもしなんだ」
小さな悩ましい呟きは更紗を眠りから覚醒させてしまったようで、宝石のような赫い瞳がゆっくりと開かれ杏寿郎を映した。
「杏寿郎君、眠れませんか?」
更紗は布団からゆっくりと身を起こし、杏寿郎の隣りへ移動して体を寄り添わせる。
「すまない、起こしてしまったな」
「いいえ、眠れないのならば私を起こしてください。私が話した事で杏寿郎君が悩んでしまっているのですよね?」
それが事実であっても杏寿郎は頷けないでいた。
聞かせてほしいと言ったのは自分であって、更紗はそれを聞き入れありのままを話しただけである。
しかも少年を助けてほしいと思っているはずなのに、一切そういった懇願もしてこなかったのだ。
「悩んではいるが更紗が原因ではない。だが、この悶々とした感情を静めてほしいとは思っている」
杏寿郎は寝ぼけ眼の更紗の体をゆっくりと畳へと組み伏せ、その首元に顔を埋めて大きく呼吸を行った。