第9章 風柱と那田蜘蛛山
「今は判断材料が足りず考えが纏まらない。鬼は嫌悪の対象に変わりはないが、更紗の気持ちも考慮したいと思っている」
苦しくならないよう心地よい体重だけを預ける杏寿郎の背を、更紗は落ち着かせるようにゆっくりと撫でる。
「私のお話しを考慮してと言ったから、悩ませてしまっているのですね。私は判断材料の一部として知っていて欲しかっただけです。杏寿郎君や柱の皆さんが明日、竈門さんとその妹さんを実際に見て決まった結果について、私が責めたり涙を流すことはありません。ですが、この件をお館様は認知されていると思いますよ?」
「お館様が?」
杏寿郎は体を浮かせ、首を傾げる。
「はい。鎹鴉からの伝令ならば、お館様はご存知のはず。きっと、何か事情があると思うのです。それを聞いてから、竈門さん兄妹の処遇をお決めになられても遅くないかと思いますよ」
ニコリと笑みを浮かべる更紗の顔は、そうだと確信しているように杏寿郎には映った。
すると心の中で悶々としていた感情はなりを潜め、気持ちが風を受けていない水面のように穏やかになっていった。
「そうだな!ありがとう、おかげで気持ちよく眠れそうだ!」
「とんでもございません。では、一緒のお布団で眠りませんか?なんだか、このまま離れたくなくなってしまいました」
更紗の申し出に杏寿郎は満面の笑みで受諾し、2人は布団へと移動して互いの温かさを身に纏いながら眠りについた。