第9章 風柱と那田蜘蛛山
そして現在、杏寿郎は疲れて布団の中で静かな寝息を立てている更紗の頬を撫でながら、明日の裁判の事を考えていた。
更紗から聞いた話によると、消えゆく鬼にさえ祈りを捧げるほど心優しい少年らしい。
これに関しては更紗もさほど変わらないので驚くことはなかった。
「溝口少年は、君の命の恩人だったのだな」
その事実が杏寿郎の判断を鈍らせてしまっている。
最終選別の際、2人の少年に助けられたと聞いてはいたが、まさかその1人が明日裁判にかけられる少年だとは思いもしなかったのだ。
「柱としては鬼の妹もろとも斬首が妥当だと思っているが……君は俺が少年とその妹を斬首したと聞いたら、俺の見えぬところで涙を流してしまうのだろうな」
自分を長年苦しめ続け、その身が滅びてもなお苦しめ続ける鬼となった当主の頸さえ、斬り捨てた時に涙を流すほど優しい少女だ。
人間である少年の首を斬ったとなれば、杏寿郎の心を想い泣くことは容易に想像出来てしまう。
「さて、どうしたものか……更紗の望むようにしてやりたいが」
それは容易なことではない。
何に対しても愛情深い蜜璃や、何事にも無関心な無一郎はともかく、他の柱の鬼への嫌悪感は計り知れない。