第9章 風柱と那田蜘蛛山
穏やかな更紗の声音に杏寿郎も徐々に落ち着きを取り戻し、力を抜いて肩に顔を預けた。
「明日の柱合会議で一人の剣士の裁判が行われる。溝口少年と言う剣士だ。額に傷があり市松模様の羽織を羽織っているらしい。君は確か栗花落少女と同期だと言っていたな?聞いた話によると溝口少年も君と同期に当たるらしいぞ」
溝口という名前は更紗の記憶にないが額に傷のある少年ならば覚えがあった。
最終選別の際に自分と一緒に闘ってくれた心優しい少年だ。
「杏寿郎君、もしかして溝口ではなく竈門さんではないでしょうか?」
「む?竈門……そうだったような気もするな。やはり更紗は面識があったか!よければ宿でその少年の事を聞かせてはもらえないだろうか?」
ピンと突如背筋を伸ばした杏寿郎に笑顔を向けながら更紗は頷いた。
「もちろんです。私のお話しも考慮していただいたうえで明日の裁判で挑んでいただきたいと思いますし」
「あぁ、約束しよう!では宿に向かうとしようか。君も明日は本部に呼ばれているようなので、早めに休む必要がある」
まさか再び自分が本部へ呼び出されると思っていなかった更紗は、緊張に体を支配されながら杏寿郎と共に山を下った。