第9章 風柱と那田蜘蛛山
「このまま杏寿郎君が戻らなかったらどうしよう……しのぶさんや冨岡様の身にも、もしもの事があったら……」
胸の前で立てている膝に顔を埋め、すぐに帰ってくるはずの杏寿郎をジッと待つが、こんな時に限ってなかなか姿を現してくれず不安が更紗の胸を侵食していく。
「ここでジッとしているから悪い事ばかり考えるのです!杏寿郎君を探しに行きましょう。後を追えば」
「その必要はない。遅くなって悪かった」
更紗が勢いよく立ち上がった瞬間、杏寿郎が木々の間から姿を現し不安に押しつぶされそうなっていた体を抱きすくめた。
無事に戻った杏寿郎の温かさにホッとしていたが、何やら杏寿郎の様子がいつもと違う事を感じ取り、再び胸の中に不安が蘇ってきた。
「どうされました?何かございましたか?」
「君には俺の心を読む力もあるのかと思うほど機微に感じ取ってしまうな。フフッ、更紗は神久夜から何も聞かされていないか?」
質問には答えてもらえなかったが、笑いが漏れたことを考えると、人が亡くなったとかそういう部類の話ではないのだろう。
それだけで僅かではあるが更紗の気持ちは楽になった。
「神久夜さんはまだ戻っていないので、私には何が起こっているのか……」