第9章 風柱と那田蜘蛛山
そんな更紗を引き止め、杏寿郎が重傷者と治癒済みの剣士の橋渡しを隠にする事で、隠からの無用な言及を逃れ滞りなく任務の終了が近付いてくる。
「お疲れだな、更紗。この剣士で最後とのことだ。体は大事ないか?」
杏寿郎は最後の剣士を抱え上げながら更紗へ問う。
当人は額に汗を流してはいるものの、特に命にかかわるようなことはないのか穏やかな表情をしている。
「少し疲れただけで体に問題はありません」
「それならいい。俺はこの者を引き渡してくるので、ここで休息しながら待っていてくれ」
更紗がコクリと頷いたのを確認し、杏寿郎は剣士を抱えて木々の中へと足を進めて行った。
その後ろ姿を見送り、更紗は今の状況を知るために神久夜を探すが近くにいる気配がない。
杏寿郎の鎹鴉も姿を現さないところを見ると、もしかすると情報を集めに行っているのかもしれない。
「何かあったのでしょうか?しのぶさんと冨岡様の身に何も起きていなければいいのですが……」
多くの重傷者と死者をこの山で目の当たりにしたことで、更紗の頭の中では、考えたくもない事が次々と思い浮かんでしまう。