第9章 風柱と那田蜘蛛山
杏寿郎は辺りを警戒しつつも、やはり更紗に目を奪われた。
(時透が武神に選ばれた人間ならば、更紗はさしずめ神に愛された人間になるのだろうか……愛が重すぎて害になりかけているが……)
銀色の粒子に包まれる更紗の姿は眩しく儚げで、杏寿郎にはそのまま消えてなくなってしまう幻のように映り、それが事実でなくとも胸を締め付けられた。
それもこれも、あの銀色の粒子が更紗の命そのものだということが原因かもしれない。
そんな事を心の中で考えている間に更紗の治癒は終了し、瀕死だった剣士の呼吸は安定してただ気を失っている状態になっていた。
だが更紗は慣れない複数人に対しての治癒を行った事が原因か、体をフラフラと揺らしている。
杏寿郎はすぐさま更紗へ駆け寄りその体を支えてやる。
「よもや体内の蓄積分が底をついたのではあるまいな?!」
「いえ、まだ余分は残っています。少し集中したので……脳が疲れただけです。次の方達を隠の方にお願いしてきます」
そう言って更紗は杏寿郎に支えられながらゆっくり立ち上がると、驚くほどしっかりとした足取りで歩きだした。