第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗よりも遥かに多くの繭を切り終え、こちらに向かってきていた杏寿郎はその声に瞬時に反応した。
「繭は任せろ!更紗はそちらに集中してくれ」
「はい!よろしくお願いします」
杏寿郎が対処してくれているのを視界の端に映しながら、更紗は急いで目の前に横たわるモノに手をかざす。
(ゆっくりではなく一気に……)
心の声と比例するように更紗から力が勢いよく溢れ出し、モノは急激に人の形へと変貌を遂げていった。
溶けて赤黒くなっていた全身の皮膚が再生され、空洞になりかけていた眼窩にも本来そこにあった物が完全に戻って来た。
更紗に任された繭を切り終えた杏寿郎は、そんな様子をすぐそばで見守っていたが、今まで見てきた治癒の速度をはるかに上回る現状に目を見張っている。
(とてつもない力だな……許容量を超えると害になるというのも頷ける)
しばらくすると完全に人の形を取り戻し、肺に流れ込んでいたであろう溶解液を吐き出した。
それを確認すると最後の仕上げだというように更紗はゆっくりと治癒を施し、1人の人間の救助が完了した。
「よく救ってくれた。その者だけだが、その者は確かに君によって命を繋ぎとめることが出来た。ありがとう」