第9章 風柱と那田蜘蛛山
涙を目にためたまま笑いを零している更紗を強く一度抱き締めてから体を離し、華奢な体を持ち上げて目の前に座らせた。
「はい!瞳が赫くなる理由は私にも分からないのですが……力を使うことによって赫くなるのであれば、使わなければ元の黒色に戻るのでは?と思うのです。ただ、それは本能と言いますか勘と言いますか……危険な気がします」
「ふむ、危険というのはそれこそ命に関わると?」
更紗は胸に手を当て心の中で杏寿郎の質問を再び自問し、ゆっくりと頷く。
「おそらく。あの屋敷にいた頃は常に枯渇状態でしたので、感じたことはありませんでしたが、今は何となく体の中に蓄積されているように思います。分かりやすく例えますと、現時点で体の半分程の量が溜まっている気がします」
あまりにも更紗にとって危険度が高過ぎる治癒の力に、杏寿郎は頭を抱える。
つまり力を使う時に消費される源がないまま治癒をおこなうと命が削られ、あまりに力を使わない期間が長くなると生成された力が体内に溜まり、それも命に関わるということだ。
「思った以上に深刻な内容だな!よく事も無げに日々過ごしていたものだ……して、力を溜める許容量を更紗は把握出来ているのか?」