第9章 風柱と那田蜘蛛山
切実な杏寿郎の言葉を聞き、更紗は緩んでいた表情から穏やかな笑みへと変化させて胡座をかいている杏寿郎へと体を近付ける。
「杏寿郎君、少しだけ甘えてもよろしいでしょうか?」
突然の申し出に頭の中で疑問符を浮かべるが、更紗が手を杏寿郎の膝にちょこんと置いてきたので、どうしたいのか分かり今度は杏寿郎が頬を緩ませて座りやすいようにと少し空間を作ってやる。
「珍しいな、おいで」
「ありがとうございます」
更紗は腰を滑らせてすっぽりと足の間に体をおさめ、背中を杏寿郎の胸に預ける。
そして前に回された杏寿郎の腕に手を添えた。
「いつも私の気持ちを守ってくださって感謝しています」
「ん?なんの事だ?……あぁ、あの日の捕縛した輩の事か。誰かから聞いたのか?」
自分で問いながら、誰かが更紗へ口を滑らす事はないだろうと考える。
天元があの日、杏寿郎にこの件に関しての更紗への対応は任せるというような発言をしていたので、あの場にいた全員にそうするように言っているはずだからだ。
「いいえ、皆さんが何も仰らないので……あえてそうして下さっているのだろうなと勝手に思っていました。そして、皆さんが想像していた通り、あの場で事実を話していただいていたら、私は泣いていたかもしれません」