第3章 出会い
「れ、煉獄、杏寿郎……様?」
名前を口にすると、ほんの僅かだが震えが小さくなり、恐怖に染まった瞳に光が差したように思える。
「そうだ。だが昨日、杏寿郎と呼んでくれと頼んだ。思い出せるか?」
「杏……寿郎さん?」
「そう、ゆっくりでいい。辛い事も思い出すかもしれんが、ゆっくり昨日の出来事を思い出すんだ」
そう言われて更紗は記憶をゆっくり辿っていく。
鬼に襲われ、杏寿郎に助けてもらうも救えなかった人がいた事。
そこまで記憶が鮮明になると、後の出来事は一気に蘇ってきて、体の震えも恐怖の色に染った瞳も急激におさまった。
「落ち着いたか?」
「あ……杏寿郎さん、申し訳……ございません」
再び頭を下げようと手に力が入ったが、杏寿郎はその力をいとも簡単に跳ね除け今の体勢を維持した。
「君は何も悪い事をしていない、謝罪は必要ないのだ。ここは煉獄家、これから更紗が鍛錬を行い、それ以外を穏やかに過ごす場所だ。もう怯える必要はない」
「でも……こんなに早く起こしてしまい、お手間を取らせてしまいました」
なおも食下がる更紗に、残った恐怖を振り払わすかのように優しく笑いかける。
「俺もすでに起きていた。障子越しに更紗のような影がうつったから追いかけてきただけだ。こんなの手間でも何でもない、だから泣きそうな顔をするな」