第3章 出会い
杏寿郎がゆっくり更紗の元へ歩く音一つで、更に震えが大きくなっていく。
額を地面に擦り付けるほど頭を下げているので表情は見えないが、まず間違いなく先程よりも恐怖に染っているのだろうと簡単に想像出来る。
華奢な体を縮こませた姿は、普段よりも小さく映った。
「申し訳ございません。どうか打つのだけは……ご勘弁ください」
杏寿郎の気配を真横に感じ取り、小さな声で謝罪の言葉を述べ頭をたれ続ける更紗は信じられない程に震えていた。
杏寿郎が跪いてその背中にそっと手を添えると、震えは最高潮に達した。
「更紗、顔を上げなさい。ここはあの屋敷ではない、ここでは誰も君がこんな早朝から清掃する事を望まない。誰も叱責しないし、手を上げることもないんだ」
一向に顔を上げず震える更紗の背を摩ってやりながら、空いてる方の手で地面に付いたままの手を優しく掬い取り、ゆっくりと上げてやる。
そうやって更紗と視線が自身と合うところまで、手を上半身と共に壊れ物を扱うかのごとく丁寧に持っていった。
ようやく目が合うも、やはり震えも止まっておらず瞳も恐怖に染まったままだ。
「更紗、俺の顔をしっかり見なさい。俺は炎柱の煉獄杏寿郎、君の育手であり、月神更紗と言う人物を1人の人間として尊重する男だ」