第9章 風柱と那田蜘蛛山
視線を移した先では、実弥が義勇の胸ぐらを掴みあげ何やら声を荒立てている。
オロオロと更紗が杏寿郎を見つめると、大丈夫だと言うように頭を撫でる。
「冨岡は言葉が足りんからな!顔を合わせれば大概あのようになってしまう。冨岡なりに歩み寄ろうとしているが、なかなか不器用なので伝わらんのがもどかしい」
穏やかな表情で言っているが、あちらは益々熱があがっているようで喧騒が大きくなっている。
「と、止めなくて大丈夫ですか?このままだと関係が修復不可能になりそうな勢いですよ」
周りに柱がいるので誰かがそのうち止めるだろうが、何かの拍子に飛び火して騒ぎが大きくなれば手がつけられなくなる……
杏寿郎は少し考える素振りをした後、更紗の頭に乗せられたままの手を後頭部へ滑らせる。
そしてその手をそのまま自分の方へ寄せ、近付いた更紗へと軽く触れるだけの口付けを落とした。
いきなりの事で更紗は硬直していたが、すぐに赤くなりつつある顔を俯いて隠す。
「心配そうな表情をする必要はない!だが、更紗の憂いは払ってやる!止めに行くが、君も一緒に来るか?」
後頭部にあった手を杏寿郎が差し出すと、僅かに赤く染まった顔に笑顔を零し、更紗はその手に自分の手を重ねた。
「はい、もちろんです!」
こうして騒がしくも楽しい大晦日は過ぎていった。