第9章 風柱と那田蜘蛛山

見ているだけで痛みを催すような連撃に鬼であるさすがの当主もかなりの痛手であったようで、地面に突っ伏したまま忌々しげに更紗を見上げている。

そんな鬼を更紗は冷めた視線で見下ろし、腰にしまわれていた日輪刀を抜き出してその頸にピタリとあてがう。

「鬼にさえならなければ……貴方を手にかける事になんてならずにすんだのに……」

幾度となく更紗は目の前で痛みにうずくまる当主に、絶望の淵へと立たされた。
戦闘時の興奮状態であったならば、こんな鬼に成り下がった男の頸など躊躇いなく斬り落とせただろう。
それなのにいざ冷静になると刃先は小刻みに震え、頸を斬ることに恐怖すら感じる。

今までも鬼の頸は躊躇いなく斬り捨ててきたが、それは生前の姿を知らないからこそ可能だったのだと、よりにもよって当主を前にして分かってしまった。

「その輩は罪なき多くの人を喰らい十二鬼月となった。ここで倒さねば被害者は増え続けるぞ。鬼殺隊としての責務を忘れてはいけない」

いつの間にか隣りに来ていた師範である杏寿郎の声音は、穏やかであるが諌める響きもこもっている。

「はい……」

更紗は柄を握り直し重い口を開く。