第9章 風柱と那田蜘蛛山
打撃であったため幸いにも血は出ていないものの、顎を強打されたので脳幹が揺さぶられ、軽く目眩が起きている。
「更紗、助太刀や助言は必要か?」
揺れをおさめようと深く呼吸をしているところに、後ろに引いたはずの杏寿郎の声がすぐ後ろで聞こえ驚く。
(随分と後ろに飛ばされたのですね……)
そんな現実を突き付けられ苦笑いを浮かべながらも、当主から視線を逸らさぬまま更紗は首を左右に振りそれを拒否した。
「いえ、まだ大丈夫です」
「だが当主は再び影に隠れようとしている。先程のような力技は手が明かされてるので使えんぞ」
杏寿郎の言葉通り、当主は更紗から距離を取れたのをいい事に、嫌な笑みを浮かべながら建物の影に溶け込もうとしている。
「力技は1つではありません!」
更紗はどうにか頭の揺れをおさめてから右手に握っていた刀を鞘へ戻し、呼吸を駆使して足に大量の血液を送って、とんでもない速度で当主の元へ詰め寄る。
そうして当主の顎を下から蹴り上げて宙に浮かせ、更に体のしなやかさを存分に使って跳躍すると、落下する速度そのままに脳天へ踵を叩きつけた。
「よもや……」
杏寿郎は真っ青になりながら顎と頭を手で押さえた。