第3章 出会い
明朝、更紗は日が昇り始めてすぐに目を覚ました。
どうやら寝ぼけているようで、目を半分閉じたままで立ち上がる。
そして、屋敷で付けていた腰紐で袖を巻き込みたすき掛けを慣れた手つきで行っていく。
そのままヒタヒタと玄関へ向かい、昨日買ってもらった鍛錬時用の草履を履いて長い縁側を横切るようにフラフラと歩く。
辿り着いた場所は昨日教えてもらった井戸の前。
「床の拭き掃除をしなくては……怒られてしまう」
ここまで辿り着いたのは長年の押し付けられた習慣が成したものだったのだろう。
感情の全くない瞳で井戸の水を汲み上げ、近くに立て掛けられている盥に何度も流し込む。
「あれ、でも雑巾はどこでしょう?聞いたら……また叱られてしまいます……」
そんな事を無意識に呟きながら、水の溜まった盥を呆然と眺めていた。
「更紗か?」
そこへ灰色の着物を気流した杏寿郎がやって来て、更紗の姿を確認すると同時に悲しそうに眉をひそめた。
だが、更紗はそんな表情に気づくどころか瞳に恐怖のみをうつし、遠目から見ても分かるほど震え、すぐさま両手と両膝を地面に付けて小さな声で問いかける。
「も、申し訳……ございません。雑巾は……どこにございますでしょうか?物覚えが悪く……申し訳ございません」