第3章 出会い
あれから数時間たち、更紗は宛てがわれた部屋の窓を開け風呂で火照った体の熱を沈めていた。
「外の世界って、杏寿郎さんが言ったように本当に思いのほか生き辛くないものですね」
あの屋敷にいた頃は窓には鉄格子が付けられ、扉は鍵が外側だけについた重い鉄の扉だった。
何もかもが冷たくて、優しさは昨夜亡くなった男がたまに周りの目を盗んで持ってきてくれるくらいのものだった。
「あの時、今みたいに笑顔で感謝を述べていればよかった……」
やはり1人になると、昨夜の出来事が色濃く更紗の脳裏を支配する。
懺悔と後悔。
おそらくあの男がいなければ今の更紗はいないだろう。
地獄にいれば、小さな優しさでもとても有難く心を救うものになりえるのだ。
どんなに望んでも後悔しても嘆いても、現状は好転しない。
それは更紗が幼い時の記憶から誰よりも理解している事だ。
「昔のように道が閉ざされてない。杏寿郎さんが道を開けてくださったのだから、明日からそれに応えなくては!」
1人決意新たに、更紗は窓を閉め布団に潜り込んで眠りにつく。
独り言と思われた更紗の言葉は、部屋の外で杏寿郎に拾われていたが知る由もない。
「最終選別の説明でも……と思ったが、さすがに入れんな」
そう呟いて杏寿郎は静かに自分の部屋へ戻って行った。