第9章 風柱と那田蜘蛛山
しのぶが鎹鴉を飛ばす少し前、杏寿郎はあえて視界から外していた男たちに驚きの視線を向けていた。
「忍だと言うのか?!どうりで……」
「そっ!んな訳で煉獄が気付けなかったのも無理はない。人に気付かせねぇ訓練を死ぬほどしてんだからな」
そう言いながら天元はうつ伏せに倒されている男の背中にドカッと腰を下ろす。
苦しげなくぐもった声が僅かに漏れたが、まるで聞こえていないような素振りで話を続けた。
「主がいない場合、忍は金を積まれれば何でも請け負う。相手が鬼だろうが極悪人だろうが関係ねぇ……って言っても鬼が依頼に来るなんざ聞いた事なかったがな」
天元は男の頭を掴み、自分の顔を見せるように捻って固定させる。
「てめぇがどこのモンか知ってるが……もうそろそろおっ死ぬか。それがそこの決まりなら甘んじて受けろ」
忍界隈のことは柱の3人には分からず天元の言葉に首を傾げ、物静かな義勇が珍しく疑問を呈した。
「なぜ死ぬ?舌も噛み切れず、手足も動かない状態だぞ」
「……忍が任務を失敗すれば後に待つのは死のみだ。それぞれ処分方法は違うが、ここの奴らは……任務遂行時間を逆算してそれに合わせた毒薬を事前に体内に入れる」