第9章 風柱と那田蜘蛛山
ほぼ更紗の首の傷が塞がり出血も止まったが、血を失ったことに加え弱った体で力を使用したことから来る衰弱に、とうとう更紗は家に到着する寸前で意識を手放してしまった。
血液が体を巡り、小さくではあるが胸を上下させているので呼吸も行っていることが確認出来るが、杏寿郎の焦りは増していく。
「更紗、頑張ってくれ……!」
苦しげに眉をひそませる更紗に声を掛けるが、それは隣りを走るしのぶにしか届かない。
「煉獄さん、更紗ちゃんは私が必ず救います。ですので柱の1人であるあなたは鬼の捜索、討伐の為に宇髄さん達と合流してください。そこで詳しく今までの経緯を聞き、対処をお願いします」
「あぁ、分かっている……柱としての責務は全うする」
家の玄関へと続く庭を早足で歩きながら返答する杏寿郎は、しのぶから見ていても胸を締め付けるほど悲しみや後悔で満ち溢れている。
頭で理解し口ではそう言っているが、きっと更紗の状態が安定するまで側にいたいと思っているのだろう。
それが分かってしまうからこそ、しのぶは杏寿郎の言葉に返事を返す事が出来なかった。