第9章 風柱と那田蜘蛛山
そうして更紗が口を開きかけた時、いきなりその体がぐらつき杏寿郎の視界を赤く染めた。
すぐ側を走りゆく複数の影、横路地に消える黒い影を目に映すがそれを追うどころではなく、地面に倒れゆく更紗の体を抱きとめる。
そこまではまるで何もかもの動きが遅くなったかのように、全てが緩慢な世界だった。
そして杏寿郎の視界を赤く染めたものは、更紗の首から溢れ出た血の色だった。
すぐに自身の着物を袖から破り止血を試みるが、全く意味を成さない。
「更紗!意識を保て!僅かでも力が使えるなら傷を治すんだ!」
今にも意識を手放してしまいそうな更紗に声を掛け細い手を握り傷にあてがってやると、微かにではあるが傷を覆うように粒子が舞う。
「すぐ胡蝶の元へ連れて行ってやる」
そう言って振動を与えぬように立ち上がるが、更紗は痛むはずの首を小さく左右に振った。
「大……丈夫、家に1人で……戻ってください。路地にいたの……あの当主。傷は……治せます」
杏寿郎の視界に入った時には既に黒い影だったもの、それは鬼舞辻無惨によって鬼にされた当主だと更紗は言う。