第9章 風柱と那田蜘蛛山
「すまない、驚かせたな」
手を伸ばし頭を撫でようとするが、今は大量の蕎麦で両手が塞がっていると気付き僅かに腕を動かすだけにとどまった。
更紗も単純に間近で鼓膜を震わせた杏寿郎の大きな声に驚いただけで、脅えるとかそういった感情は一切なく、むしろ一言言ったもののいきなり力を使った事に対して申し訳なさそうに眉をひそませている。
「いえ、こちらこそ驚かせてしまい申し訳ございません。瞳の色に関しまして、今は瞳が赫いのでよく見なければ分かりませんが、あのように力を使用すると色が変化します。生まれてから力を使用するまでは黒かったようです」
事も無げに言っているが、杏寿郎は首を傾げる。
それだけならば先程の行動と噛み合わない、そこまで戸惑う必要はないように思えるからだ。
「瞳の色は理解した。だが先程の視線の動きは何だ?言い辛い事はないのだろ?」
「はい。ですが、これからは私の仮説でしのぶさんにも話していないのですが……それでよろしければお話しします」
袋をよいしょと持ち直す更紗からガサリと蕎麦を自分の袋に入れながら頷く。
「構わない、話してくれ」